“オーボエ・ジーニャス・ラーナー”は、“天才”達が誰にも教えられないのに当たり前のようにやっていることを、計画的に積み上げていきます。
“天才”達は、なんの苦労もないように、やすやすと難曲を吹きこなしていきます。
でも、そこには大きな誤解があるのです。
オーボエの達人になるためには、苦労しなければならないという誤解です。
“天才”達は、音楽の演奏をどこまでも楽しみながら学んでいきます。
学ぶことは、決して困難な艱難辛苦を乗り越えていくことではなく、新しい気づきや発見をともなったワクワクするような時間のなかでの楽しみに違いないのです。
楽しい、だからもっと練習したくなる。楽しい、だから、いつまでも練習したくなる。
長時間の練習も決して苦にならないどころか、練習しても練習しても練習したくなるのです。
それは“天才”達が音楽を楽しみながら身につけていく方法を知っているからです。
でも、それを知っているから“天才”になっていくので、最初から“天才”なわけではないのです。
だから、たとえいまは“天才”ではなく、“天才”と同じようなステップを踏んで練習すれば、きっとあなたも“天才”になれるです。
そして、それが“オーボエ・ジーニャス・ラーナー”の“オーボエ・ジーニャス・ラーニング”ステップなのです。
7Step“オーボエ・ジーニャス・ラーニング”
- 音源を聴く
- 歌ってみる
- 慣れる
- 小節、フレーズごとに練習する
- 細部まで楽譜通りに吹けるようにする
- 音楽性を高める
- 自分なりのアレンジを試みる
1.頭のなかで自然に鳴り響くまでその音源を聴き込む
オーボエにリードを刺していきなり吹き始める。
これほど無謀なオーボエの練習方法はありません。
“天才”達の共通点は、演奏をはじめるときには、その音楽が頭のなかで鳴り響いているということです。
その旋律を追いかけるように吹いていくのが、“天才”演奏者達に共通する演奏方法なのです。
スケール練習でも、いや一音のロングトーンであっても、まず音源を聴いて、自分が理想とする音を頭のなかで鳴り響かせることからはじめていただきたいのです。
1-1.ロングトーン、スケール練習の場合
レッスンを受けている先生に演奏していただき、それをスマホやヴォイスレコーダー等に録音させていただいたものを何度も聴き返します。
スケールの練習もまず何度も模範の音源を聞き込むことで、それぞれの調のイメージが明確に頭のなかに刻まれていきます。
スケールは、単に単音のつながりではありません。
長調、単調の自然音階、和声的音階、旋律的音階、それぞれ固有のイメージを持っています。
それを演奏をはじめる前に、しっかり自分の頭のなかで響かせておくことが欠かせないのです。
1-2.楽曲の練習の場合
これから練習しようと思っている楽譜を演奏した音源を何度も繰り返して聴くことからはじめましょう。
レッスンを受けている先生にお願いして、演奏していただき、それをスマホやヴォイスレコーダー等に録音したものを聴き直します。
また、同じ楽曲でも演奏者によってテンポやアレンジも微妙に異なります。そういったさまざまな楽曲を聴き込むこともイメージをふくらませる最適な練習方法のひとつです。
YouTube等を調べると、同じ楽曲でもさまざまなアーチストが演奏した楽曲がラインナップされています。
自分が演奏しようとしている楽譜に忠実な演奏はもちろん、同じ楽譜でも演奏者が違えば表現方法はさまざまな異なることを聴き分けることも最も有益な練習になるのです。
1-3.音源を再生速度を変えて聴いてみる
音源そのままに聴き込むことはもちろん基本的な聴き方ですが、速いパッセージの楽曲を再生速度を落として聴くことも勉強になる方法のひとつです。
まだ聴く力が発展途上の場合、原曲のままでは頭のなかに旋律が怒濤のように流れ去り、イメージを掴むどころではなかったりする場合もあります。
そんなとき、音源の再生速度を落として聴くことで、より理解しやすくなったりします。
特に、エチュード練習でのスラーやタンギング等細かいアーティキュレーションは、再生速度を落として、スローで聴くことで分かりやすくなることはいうまでもありません。
ぜひ、やってみてください。
2.テンポや音程を含め、楽譜どおりに歌ってみる
2-1.楽譜に記載されたアーティキュレーション忠実に再現する
自分のなかでその楽曲が豊かに響くまで聴き込んだら、次に行うことはそれを自分で歌ってみることです。
実際には、聴くことはしても、そのあとすぐにオーボエを取り出して吹き始めるひとがほとんどです。
けれど、「歌えないものは演奏できない」という言葉が、すべての音楽演奏に共通する警句があります。
歌うのは苦手というひとも少なくないでしょう。
でも、ひとに聴かせるために歌うわけではありませんから、そんな苦手意識は捨ててしまいましょう。
まず、音源を聴きながら、楽譜を見て、それを声に出してみることからはじめてください。
楽曲の練習の際には歌っても、スケール練習の際に歌うひとはほとんどいらっしゃらないかもしれません。
ぜひ、スケール練習でも歌ってみることをお勧めします。
最初は、ただ頭のなかのイメージを声に出すだけでもいいのです。
でも、だんだんと歌のクオリティもアップさせていくと演奏への効果も高まります。
具体的には、スラーやタンギング等正確なアーティキュレーションや、クレッシェンド、デクレッシェンド、アクセント等の表現です。
テヌートやひとつひとつの休符の長さも楽譜に忠実に再現してみてください。
実際歌っていただくと実感できるのが、楽譜を歌として再現することの難しさです。
声という自分が比較的操りやすい“楽器”でも、こんなにもひとつの音楽を楽譜に忠実に再現することは難しいのだと理解することは、そのあとオーボエを吹くときにもきっと役に立つに違いありません。
少なくとも、自分の声でさえ再現できない楽譜のディテールを、オーボエという“世界で演奏することがいちばん難しい楽器”で演奏することがカンタンではないと思えるだけでもいいのではないでしょうか。
そしてもし、あなたがオーボエの先生から「歌ってみましょう」といわれたら、ぜひ積極的に挑戦してみてください。
2-2.音程に注意しながら歌ってみる
そして、このあとぜひお勧めしたいのが、チューナーを使った歌う練習です。
歌うときにも各音の音程をより正確に再現するのです。
もちろん、自分の声の音域によっては出せない高音、低音もあるでしょう。
そこまで無理して出さなくてももちろん結構です。
ただ、自分が出せる音域については、より正確な音程で歌ってみることは、ピアノ等の鍵盤楽器とは違って、一音一音の音程調整が演奏者に委ねられているオーボエ演奏にとっては、最も効果的な練習方法のひとつといっても過言ではありません。
オーボエの演奏時にどうしても音程が取りにくいという方は、この練習をぜひ試していただきたいのです。
頭のなかで正確な音程を奏でられることは、オーボエを吹いたとき正確の音程を表現するために最も大切な条件のひとつなのです。
オーボエでは一般的にF、A、Hの音程が低くなりがちです。
反対にCやGは高くなりがちです。
ところが、自分の頭のなかに正確な音程が刻めるようにすることで、オーボエを吹いた時にも、自然に音程を合わせられるようになれたりするのです。
これは、実際に体験したひとならわかっていただけることでしょう。
そして、オーボエの“天才”達は、オーボエを吹くその前に、頭になかに正確な音程を刻んでいるのです。
そんな“天才”達の演奏を真似する前に、“天才”達の頭のなかのイメージを真似していただきたいのです。
3.慣れるとは、その楽譜といっしょにいる時間を楽しむこと
「慣れる?」
「いったいなにをいっているのか?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
でも、この慣れるというプロセスほど、演奏の上達に欠かせない過程はないのです。
ロングトーンにも、スケールにも、エチュードにも、そしてモーツァルトの『オーボエ協奏曲』にも共通するある心のブレーキ。
それが、“慣れていない”ということなのです。
たとえばC-dur、ハ長調の音階練習をほとんどのひとは容易にこなします。
反対に、♯が7つついた○短調、♭が7つついて○短調というと、その瞬間緊張が走ってしまうのではないでしょうか。
実際運指が複雑ということもあるかもしれません。
でも、それは違うのです。
最初から○短調や○短調からはじめていたら、そんな抵抗感はないかもしれなかったりするのです。
C-durは、オーボエ初心者のころからいったいどれだけ吹いてきたでしょうか。
そう、結局、どれだけそのスケール、そのエチュード、その楽曲と親しんできたかということが、実はそれぞれと向き合うときに最も大切なことのひとつなのです。
“天才”達は、この慣れるということを日常的にこなします。
オーボエを吹くことを嫌々やっていないことに加え、どんな難しいスケールも、エチュードも、楽曲も、吹ける吹けないにかかわらず、躊躇なく挑戦します。
そう、あなたに足りなかったのはこの慣れるというプロセスなのです。
できる、できないにこだわらず、ただその楽譜と戯れればいいのです。
その楽譜といっしょにいる時間の長さは、そのままその楽譜と仲良くなれる深さに通じます。
くどいのですが、もう一度繰り返します。
できるとか、できないかとかは、どうでもいいのです。
これは、初心者、初級者の方だけではありません。
モーツァルトの『オーボエ協奏曲』に挑戦するすべてのオーボエ奏者にもいえることなのです。
慣れること、それは愛することです。
うまく演奏しようとか、正確に演奏しようとか、そういったことは一切考えず、ただ目の前の楽譜に馴染んでください。
具体的にいえば、その楽譜の少しでも長い時間いっしょにいてください。
うまく吹きたいなどと思ったら、長い時間いっしょにいることはとてもできないでしょう。
そうではなく、その楽譜といっしょにいる、その時間を愛することが最も大切なことだと最後に申し上げておきます。
4.頭から練習しない、全体を通して練習しない
オーボエに限らず、すべての楽器演奏者は、自らが上手く演奏できることをこよなく愛しています。
だから、ついついできるところ、うまくできるところを練習してしまうという習性があります。
これは、ひとつの“麻薬”といっても過言ではありません。
うまくできるところを練習しても練習にはならないのです。
できないところを練習することが、ほんとうにその演奏者の未来に欠かせない練習なのです。
ところが、なかなかそれができないということも真実です。
そのうえで、あなたにはあなたが苦手なところを練習していただきたいのです。
苦手な小節、苦手な二音のつながり、それだけを取り出して練習していただきたいのです。
できないところだけを取り出して練習することくらい、できそうでできないことはありません。
でも、同じ練習時間があれば、自分ができないところを徹底して練習していただきたいのです。
楽曲の頭から練習する必要はありません。
それは、練習の最後のまとめでやればいいことです。
あなたが苦手なところに、あなたの成長の可能性が集中していることをぜひ忘れないでいただきたいのです。
最後に、少し厳しいことを申し上げてもいいでしょうか。
できないことをやる、それが練習です。
小節、フレーズごとに練習する、そんなクセをぜひつけていただきたいのです。
5.ヴォーカロイドを目指して、楽譜通りに吹けるようにしてください
楽譜どおり寸分違わず演奏する、いわば音楽のロボット、ヴォーカロイド。
ヴォーカロイドの演奏など誰も感動しないといういい方もできるでしょう。
でも、まずあなたが目指すべき到達点は、楽譜の忠実な再現です。
もちろん、楽譜の忠実な再現が、あなたの演奏の到達点ではないことはいうまでもありません。
作曲者の方々が望んでいることも、同じようにただの楽譜の忠実な再現ではないでしょう。
楽譜という限られた範囲のなかで、作曲者の方々が求める音楽がすべて表現できるわけではないに違いありません。
だからこそ、まず楽譜に記載されたすべてのことを忠実に再現することは、演奏者としての最も基本的な使命に違いないのではないでしょうか。
それぞれの音符、休符の音価を守る。
記譜されたさまざまな音楽記号の指示を守る。
タンギングやスラー等のアーティキュレーションを忠実に表現する。
リズムや音程をはずさない。
その楽譜をどこまでも正確に再現することを目指していただきたいのです。
そして、その楽譜どおりということは到達点ではなく、その音楽のはじまりであることをここで改めて強調しておきたいと思うのです。
行間を読む、Reed between the linesという言葉があるように、楽譜に記載されていない作曲者の方々の想いを
どれだけ汲めるか、それこそあなたのオーボエ奏者としての挑戦に違いないのです。
6.音楽性を高める
楽譜を正確に再現することができる。
それはあなたの音楽家としてのスタート地点といっても過言ではありません。
ここから、どうやって聴くひとが感動する音楽に演奏の音楽性を高めていくか。
たとえばppの小さな音も、遠くで微かに鳴っている鐘の音と、耳元で恋人がつぶやくささやき声では、まったく違う印象の音であることはきっとご理解いただけることでしょう。
偉大な演奏者の偉大な演奏がなぜ偉大なのか。それを細かく研究していくことも欠かせない作業のひとつでしょう。
膨大な練習時間を費やしてここまでのレベルまで到達しながら、ここで諦めてしまう演奏者の方も残念ながら少なくありません。
“天才”演奏者を“天才”演奏者というひと言で片づけ、自分とは違うと断言してしまうのはカンタンです。
けれど、自分の演奏と“天才”の演奏との違い、つまり音楽性の違いを見いだし、どうしたら“天才”の演奏に近づけることができるかを考えてみることもぜひ挑戦していただきたい大切なことのひとつでしょう。
音楽性には、ここまでいいという到達点はありません。
より果てしなく音楽性を高めるために、古今東西の演奏者が限りない努力と情熱を注いできたのです。
ある日本を代表するオーボエ演奏者の方が、あの演歌の女王、美空ひばりさんの歌を聴き込み、ひとを感動させる音楽の秘密を研究していたともいわれています。
ジャズの巨匠の演奏がなぜひとを感動に包み込むのか、それを研究している音楽研究者の方もいらっしゃいます。
実は、微妙にリズムや音程を外すことで、ある違和感を表現し、それが平板な演奏に雑味をくわえ、ひとの気持ちを揺り動かすのだという研究結果もありました。
ぜひあなたも音楽性を高めるためのさまざまな試みをしていただきたいのです。
巧みな演奏と、ひとの気持ちを動かす演奏は違います。
どうしたらもっとひとを感動させる演奏をかなえられるか。
それに挑戦することくらい、ひとりのオーボエ奏者としての幸せはきっとないのです。
7.自分なりの音楽表現を試みる
ジャズの歴史に燦然と輝く名手、セロニアス・モンクというピアニストがおられました。
亡くなられて30年近くの歳月が流れましたが、即興演奏、インプロビゼーションの独特のスタイルでいまだに数多くのファンが存在します。
「ジャズは個性の音楽」を体現した唯一無二の演奏者としていまもリスペクトされています。
モンクの演奏には、さまざまな違和感が存在し、それを受け入れられないひとがいる反面、絶大なファンもそれ以上に多いのです。
楽譜という絶対的な存在があるクラシック音楽では、基本的に即興演奏は許されていませんが、Cadenza(カデンツァ)という楽曲の終止前に演奏者が自由に即興的な演奏を求められるパートも存在します。
実際、世界的なオーボエ奏者の方々は、作曲者としても知られ、それぞれの楽曲を独自の解釈でアレンジして演奏している場合も少なくありません。
また、映画音楽として人気も高い『ガブリエルのオーボエ』は、基本的な楽譜はあっても、演奏者それぞれがその細部を独自のメロディー、音価でアレンジして吹いているケースが多く見られます。
同じオーボエを吹いても、その音色は吹くひとによってさまざまです。
その日のリードの状態によっても、変わってくるでしょう。
「ディテールには神が宿る」という言葉があります。
あなたはあなたの演奏の細部に、どんな音楽の神さまを宿らせますか。
音楽演奏に到達点はありません。
果てしない音楽表現への挑戦もまた、オーボエ奏者であるあなたのかけがえのない幸せのひとつに違いないのです。