全体を通して練習せず、できる部分に分割して練習する
スケールでも、楽曲でも、最初から最後まで通して練習するのは、決して得策ではありません。
自分が容易にできる部分まで、細かく分割して練習するのが“オーボエ・ジーニャス・プラクティス”の最も効率的な練習方法です。
長いパッセージは、フレーズごとに区切る。
フレーズごと、小節ごとに分割して練習する。
二音のつながりだけを練習するのも“オーボエ・ジーニャス・プラクティス”の最も賢い練習方法のひとつです。
極端にいえば、ただ一音だけでもいいのです。
どんな難しい楽曲も、あのモーツァルトの『オーボエ協奏曲』も、すべて一音一音が集まって構成されています。
ピアノのような和音がないのも、管楽器であるオーボエの特徴のひとつです。
もちろん、一音といっても出せない音はあるでしょう。
たとえばハイF。いちばん下のFから3オクターブ上のFなど、ただ音を出すだけといっても容易に出せるものではないでしょう。
そんな難しい一音の練習も、運指だけならできるのではないでしょうか。
ただ指を置くだけでも難しいフィンガリングもあるでしょう。
でも、すべての指ではなく、ひとつの指なら押さえられるのではないでしょうか。
練習時間が限られているときにこそ、この分割練習は効果を発揮します。
時間がないから練習できない、というのではなく、少ない時間でもより効率的に練習できるのも“オーボエ・ジーニャス・プラクティス”ならではの練習方法なのです。
自分ができる速さまで速度を落として練習する
それぞれの演奏には、求められる速さ、テンポがあります。
もちろん、最終的にはそれを目指して練習しますが、最初は自分ができる最も遅い速さ、遅いテンポで練習しましょう。
自信をもって演奏できるようになったら、メトロノームのひと目盛りずつテンポを上げていけばいいのです。
ここでも決して一足飛びにテンポアップするのは得策ではありません。
自分ができるテンポでの演奏のクオリティを十二分にアップさせてから、ひと目盛りずつテンポアップしていってください。
最初からその曲の速度記号で練習することくらい難しいことはありません。
そんな速さでミスを重ねるのではなく、自分ができる速さで丁寧に練習し、ひと目盛りずつテンポアップしていくほうが遙かに早く、自分が目指したいテンポに辿り着くことができるでしょう。
ただできるテンポでミスを重ねながら闇雲に練習するのではなく、自分が求める演奏が思い通りにできるテンポで練習するということが最も大切な練習条件のひとつであることを忘れないでいただきたいのです。
クオリティを追求する前にまず慣れるために練習する
目の前の課題に慣れるということほど、忘れられている大切な練習条件はありません。
慣れるということは、練習の前の練習ともいえるかもしれません。
細かい練習をする前に、まずそのスケールに、その楽曲に、その演奏に慣れるということです。
この段階では、クオリティはあまり追求しない方がいいでしょう。
音程もテンポも狂っていてもいいのです。
たとえば子どもたちは、なにかをやるとき、ただ自分が楽しければそれでいいはずです。
大人から見ればいいかげんで、滅茶苦茶でも、その子が楽しければそれでいいのです。
慣れるとは、たとえばそんなやり方です。
無邪気に、ただ目の前の課題に慣れるだけのために練習するのです。
クオリティを追求する練習は、精神的にも肉体的にも負荷が大きく、ストレスも小さくありません。
そういった練習をいきなりするのではなく、その前にただ何度も吹くことで、その課題に慣れておくのです。
上手くやれなくてまったく構わないのです。
ミスを重ねても、自分はまだ慣れていないだけだと思って、気軽な気分で練習を繰り返しましょう。
多くの場合、この慣れるというプロセスに時間を割くことをしないため、いきなり厳しい練習になってしまうのです。
子どもたちが新しいスポーツをはじめるとき、たとえぱそれが野球でもサッカーでも、最初から難しいことに取り組んだりせず、ただ球と遊ぶことが大切です。
慣れるとは、この遊ぶのに似た行為です。
遊びながら、楽しみながら、そのスケールに、その楽曲に馴染んでいくのです。
十二分に慣れ親しんで、馴染んだら、さあ、そこから本格的な練習プロセスに入ればいいのです。
慣れていないことには誰もが怖れを感じるものです。
その怖れこそ、上達を阻害する最も大きなブレーキにほかならないのです。
慣れることで、少なくとも怖れる気持ちは少なくなるでしょう。
できないからといって怖れることはないのです。
いまはまだできない、というだけなのです。
ぜひ慣れることからはじめていただきたいのです。